代ゼミ、怠った生徒目線

沖山教育研究所

日経10月5日朝刊(電子版セレクションからの引用です)

・誰もいない教室

9月2日、午後2時。
代ゼミの一室に、
70人近い学習塾関係者が集められていた。

『代ゼミサテライン予備校』のフランチャイズ校として、
各地で映像授業を展開しているこの経営者たちが、
大量閉校を聞いたのは、
2週間前のことだった。

『いったい、だれが決めたんだ」。
詰め寄る塾関係者に、
代ゼミの経営トップ、
副理事長の高宮敏郎は、
「さあ」と言って首をかしげ、
煙に巻く。

今後、
講師300人が解雇されて
授業の劣化も危惧されるが、
それで塾側が解約しても
違約金を代ゼミに払うのか。

「個々にご相談に載ります』
という代ゼミに会場から怒声が上がる。
「違約金を払うのは代ゼミの方だろう」。

1時間が過ぎたころ、
高宮が打ち合わせを理由に席を立つ。

「おい、一体誰が決めるんだ。
 後で決めときますなんて、この世の中では通らんぞ」

代ゼミがどうなってもいいと思っている―――。
会場を後にした塾経営者は、
眼前の代ゼミタワーを見上げて、
その意を強くした。

「予備校にこんなビルが必要なのか」。
タワービル完成から6年、
瞬く間に崖っぷちに追い込まれた。

ビルの中は生徒もまばら。
講師が教室に入ると一人もいないこともあるが、
授業を始めなければならない。

授業を録画・配信するからだ。

代ゼミはそうした実態を
ひた隠しにする。
生徒数や売上高、
そして合格実績も公表しなくなった。

実は1980年代の拡張期から
変調が見えていた。

人気講師を売りに台頭したが、
88年、「金ピカ先生」こと佐藤忠志が
ナガセが運営する東進ハイスクールに引き抜かれた。

その後も多くの講師が東進に流れる。

両行の運営システムは異なる。

ナガセは
東進ハイスクール93校や
東進衛星予備校909校を全国に展開するが、
保有不動産は2カ所だけ。

映像授業の衛星予備校は、
地方の塾とFC契約を結んで
全国展開している。

「直営だと校舎によって先生の当たり外れが出てしまう」
(ナガセ社長の長瀬昭幸)。

そこで、実力のある講師の授業を映像にして
10万人の生徒がいるFC校に提供する。

「東進なら給料が3倍になると噂された。
 映像を撮れば、
 あとは自由に時間が使える」(代ゼミ元講師)。

東進の国語教師、
林修がテレビタレントとして活躍できるのも、
この仕組みが背景にある。

一方、代ゼミの講師は
1日に複数の校舎を回って授業をこなすこともある。

いきおい、有力な講師は東進に流れていく。

代ゼミも
サテライン予備校で対抗したが、
現役生を主な対象にしながら
「浪人生向けの授業も流されるため、
まだ現役生が習っていない内容が混じる」
(FC校塾長)。

東進の映像授業は
1万5000にのぼり、
毎年3000~4000が
更新される。

受講状況のデータを解析し、
成績が向上しない講座は
廃止するか取り直す。

東進は
今年の東京大学合格者が、
現役生だけで668人に上った。

・「現役東大」で混乱

一方、代ゼミは
「東大現役合格」を掲げて全国展開した
Y-SAPIXが迷走した。

2009年に
有名進学塾SAPIXをグループ化。

11年、
代ゼミ本体の現役コースを縮小して
Y-SAPIXに統合を図る。

だが、
生徒数が収入に影響する代ゼミ講師が反発した。

結局、12年度には
現役コースが復活したが、
この迷走を目の当たりにした高校生が
今の浪人生世代に当たる。

一斉閉校を招いた生徒減少は、
Y-SAPIXの迷走で
「代ゼミ離れ」が加速したことが
背景にある。

「SAPIXが中高受験で実績を作ってきたのは
 システムではなく、先生の力量が大きかった」。

大手学習塾の経営者は、
SAPIXは全国への拡大が難しい経営モデルだと
指摘する。

東進が勢いを増し、
代ゼミが迷走した真因はここにある。

東進はシステムを研ぎ澄ませ、
教育効果の再現性を高めている。

一方の代ゼミは
生徒の目線で授業やシステムを組み上げていない。

今年のY-SAPIXの東大合格者は12人。
東進とは大差がついた。

三大予備校のライバルからも
引き離された。

駿台と河合塾は、
生徒数をほぼ横ばいで維持。

そして駿台が予備校戦争にとどめを刺す。

今年、
東京・立川と広島に新校舎を出し、
押し出されるように、
代ゼミは来春、
立川校と広島校を閉鎖する。

追い込まれた代ゼミ。

現場を軽視して
教育の変化に遅れた「さまよう巨人」は、
どこに向かうのか。

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ものすごく面白い記事でした。

サピを買収した時点で、
「あー、あと5年だな」と同僚と話していたことが
現実になってきました。

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